文系の価値を今こそ見直そう⑥

投稿日時 2016-10-12 16:08:21 | カテゴリ: 3.在学生からのレポート(学生レポーター)

こんにちは。学生レポーターの大石真です。

今回は、社会学科の貴田潔(きだきよし)先生のところにインタビューに行ってきました。日本の中世の地域社会について研究されている先生で、日本史概論(前半)、日本史概説(後半)、日本中世社会史、日本中世文化史などの担当をされています。


1.どんな研究をされていますか?

簡単にいうと、景観の歴史について研究しています。

史料から、村の姿などイメージを作っています。例えば、鎌倉時代の荘園絵図に書かれているものが今のどこにあたるかという問題に関心があります。

あるいは古文書から田、畠、家の分布など村の景観の復元をしています。かつての村のなかの地名も数百年経っても変わっていないものが多く、そうした生活のなかで使われてきた小さな地名もてがかりになります。

過去のなかで私たち人間は自然と関わりながら生きてきましたが、景観の歴史はそうした人間の生きた足跡を知る重要なテーマと考えています。

 

2.この研究をはじめようと思ったきっかけってなんですか?

 私は長崎県の出身ですが、中学・高校の頃、自分が暮らしている地域の風景が昔どうだったのだろうと興味を持ったことがきっかけです。

あともう1つの理由として、中学生の頃にもののけ姫が公開されました。自然と対峙する中世人の野性を描いたこの映画は本当にワイルドでかっこよく、そのことから過去を想像することに興味を持ちました。当時はただの妄想だったのかもしれませんが。

 

3.これから今の研究をどう進展していきますか?

 これまで九州地方を主にフィールドとしていましたが、昨年、静岡に赴任しましたので、少しずつですが東海地方もフィールドにして、地域に根ざした研究を始めようと思っています。

また、ただ2つの地域を研究するというだけでなく、中世に日本の中心だった京都を視野に入れて、西日本と東日本との違いや地域性について調べていきたいと思います。

 

4.中世を研究する意義は何ですか?また、おもしろいところはなんですか?

私は現代人からすれば中世人の社会は異文化社会なのだろうと考えています。

中世史を学ぶ意義の1つとして、現代人の考える“常識”や“伝統”を相対化させることができます。例えば、中世社会のなかで同性愛は広く認められていたと言われるように、“男らしさ”“女らしさ”などの価値観は時代によって変わっています。仮に現代人が“伝統的な男らしさ、女らしさ”の名のもとにこれを社会から排除しようとするのであれば、歴史の理解としては矛盾しています。また、中世の境界認識も、領土問題にゆれる現代と比べれば、もっとゆるやかなものだったと考えられています。

このように、現代人が“伝統”だと考えているものは、多くの場合、そもそも中世には存在しなかった、近世以降に造られた比較的に新しい伝統なのでないでしょうか。私たち現代人にとっての“常識”や“伝統”が生まれたのは、数百万年にも及ぶ長い人類の歴史と比較すればほんの一瞬の出来事だと思います。

現代人の常識は必ずしも中世人の常識と同じでないということですね。中世の世界を紐解いておもしろいと感じることは、まるで私が海外からの留学生との会話のなかで彼我の経験の違いを楽しんでいるときの感覚に近いかもしれません。狭い常識の枠にとらわれず、自分に理解できないことを理解しようとする対話の精神が、もっと今の私たちには必要なのではないでしょうか。

 

5.11月の静大祭のキャンパスフェスタでは、古文書の展示を出すことになっていると思います。(※岳陵会のブースと同じ階です)そこで、同窓会の方々になにか一言アピールお願いします

 古文書展では学生たちが整理を続けている古文書を展示しています。旧家に伝えられた江戸時代から明治時代の頃の古文書ですが、私たちが住む静岡という地域の歴史を知る貴重な史料ですね。

私たちの研究室では地域の文化財を守るために、頑張っています。その一部を展示するので見に来てください。史料の保護は社会の理解がなくては成り立ちません。みなさんも一緒に100年後、いえそのさきの未来まで大切な文化財を守っていきましょう。

 

6.最後に、学生におススメの本の紹介をお願いします。

 最近、読んだ本で、高野秀行・清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社インターナショナル、2015)は、世界観が覆される快感が味わえて、面白い本です。ぜひ読んでみてください。

また、みなさんも面白かった本を私に紹介してください。

 

 






静岡大学 岳陵会にて更に多くのニュース記事をよむことができます
http://e-gaku.org

このニュース記事が掲載されているURL:
http://e-gaku.org/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=537