「モラトリアム記」
著者 大久保 氏平
文芸社 2015年5月刊行 定価(本体1,500円+税)
旧制高校時代の面影が残る趣のある佇まいに較べ、移転後には、山麓の蜜柑畑や山腹の森を強引に切り拓いた、自然破壊をも連想させる剥き出し感がありました。
それが四十代のある時、科の同窓会を開き昼間大学へと出かけた折には木々も繁り、ずっと前からそこにあったかのように、校舎が周囲の緑と馴染んでいる様には、少々驚かされました。
この本を鬼籍に入る前に是非著したいと願ったのには三つの理由があります。
まず1969年は受験生にとって特別な年でした。一部の大学の紛争ばかりをメディアは取りあげ、入試中止の影響を受けた受験生について報じられることはありませんでした。
そんな訳でどこかでその時の受験生の様子を書き留めておきたかったのです。
次は、モラトリアムは女将さんの死をもって終わりを告げますが、同時に爾後、彼女が学生達と関わった十余年を本に著したいとの想いが、新たな伏流となって流れ始めました。
偉人伝や武勇伝とは真逆の、一市井の人の生き様を文章にしたいと思うようになりました。それがここまでずれ込んだのは、筆力不足以外の何物でもありませんが、何とか間に合いホッとしているところです。
そうして最後に大風呂敷を広げて恐縮ですが、ここに登場する人物達を通して、拝金主義や権力志向等が横行闊歩する今の社会に、ささやかな抗いを示したかったのです。

【著者プロフィール】
大久保 氏平(おおくぼ しへい)
本名 友川英美 (人文7回 昭和50年 英文学 卒業)
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